模石/ベラクルス大学美術学部美術史講師 ホスエ·マルティネス·ルイス·ロドリゲス
ハラパ、ベラクルス
川の石が生成するのにはどのくらいの年月が必要なのだろうか? 川石の一つ一つの形やテクスチャは、川の流れの中で石と石とがぶつかり合い構築されていく。それらは何世紀もの間の絶え間ない運動の集積である。矢作隆一はオリジナルの川石を模倣するために原石を研磨するのであるが、何世紀もかけて形成された形を数日の間に彼の手の中で作り出すのである。
今井祝雄の作品のファンでもある矢作は、モダンアートのような単一のオブジェの制作に拘らず、コピーすることに重点をシフトしようとしているように見える。だがそれでいて彼の作品は時間をかけて構築されて行く。矢作はこの作品は自分一人で完結すのではなく、次の世代へと引き継いで行くことを望んでいる。各世代の作家が引き続き同じ唯一の川石をコピーし続けて、限りなく川石が再生されていくのである。もしそれを達成することができるなら、この作品は矢作の命を超越していると言えるかも知れない。
矢作は実際に川石のコピーを制作するに当たり、 実質的な要素として観察力と石と対する経験値の重要さを挙げている。原石から石を彫り始め、形を出し磨き上げる行程は決して容易いものではない。なぜならそれぞれの原石は大なり小なりの質の違いがあり、その違いによって制作のプロセスも変わってくるからである。このプロセスの中で作品が完成に近づくほど川石へと近づいていくのである。この制作の課程は自然の作り出すものと人間の作り出すのもとのギャップを埋める行為とも言える。そして最終的に矢作の作り出す石は川石となるのである。
現代の人間の作り出す大量生産社会は、物の持つ本来の姿を覆い隠してしまう。この限りの無いコピーゲームの中で求められている観察力とは、じつは我々には関係ないと思われるものをよく見ることなのかも知れない。
模石
川で拾った一つの石をその同じ質の石で模刻して行く彫刻
ベラクルス州立大学付属ラモン・アルバ・デ・ラ・カナル・ギャラリー(ベラクルス、メシキコ)
2013
模石
川で拾った一つの石をその同じ質の石で模刻して行く彫刻
プラザギャラリー(東京)
2014
模石
川で拾った一つの石をその同じ質の石で模刻し、その模刻した石を模刻、その模刻した石の模刻の模刻…..をして行く彫刻
ベラクルス州立大学美術造形研究所附属ギャラリー(ベラクルス、メキシコ)
2015